「わかるよ。きみもまだ子どもだからね。
これから先もご両親と一緒にいたいっていう気持ちは、痛いほど。だけどご両親についていくとなれば、海外へ移住することになる」
「……はい。
でも、元からその予定でしたから。おそらくもう二度と戻ってこないであろう日本で、最後の生活を楽しめるように、って」
「……うん」
まだ終わらないはずだった計画が急激な進展を見せたことで、わたしが日本にいられる時間は一瞬にして減った。
それを危惧した両親が日本にもどっておいでと言ったことで、わたしは留学を切り上げてこっちへと帰ってきた。
計画の終了と同時に、日本を去るために。
「ご両親と一緒にここに残ることだって、
方法のひとつとしては、あるんだよ?」
それも、考えないわけじゃなかった。
わたしが選べばどこにだっていける。日本だって去らなくて良い。だけど、もう両親を解放してあげたかっただけ。
「……平和なところに、行きたいんです。
両親と、ただ笑って暮らせるところに」
家族3人だけで。
その他のものはすべて捨てて。
「それが、わたしが生まれた時からの。
3人だけで叶えられる、唯一の望みですから」
17年生きてきて、欲しいものは今も変わらない。
平和に生きていける環境と、家族3人で笑っていられる時間だけ。
「……、そっか」
さっきとはすこし違う、どこか困ったような微笑を浮かべた理事長は。
「わざわざ呼び出してごめんね」と、話に区切りをつける。
「失礼しました」と、部屋を出る際に。
いくみさんのすこし悲しげな表情が。──いつみ先輩の横顔と、重なって見えた気がした。



