そんな風に言える彼女を、嫌味な人だとは思わなかった。
ただ、そうやって言ってしまえるほどの親密さを見せつけられたような気分だった。
鮮明に、自分たちとの距離を感じた。
時間の差は努力したって不可抗力に埋まってはくれないし、ふたりの間に実質的な距離が大して無いのもまた、どうしようもない事実。
「女の子相手に、こういうことあんまりしたくないんだけどさ〜。
……デート。尾行すればいいんじゃねえの?」
放課後になって南々先輩が彼と帰るためにC棟を出ていったあと。
椛先輩の提案を、「やめとけ」と一蹴したのは、彼女に男が近づくのを誰よりも好ましく思っていないはずのいつみ先輩。
「あいつのプライベートまで縛ってやるな」
「でも、いっちゃんだって気になるでしょうに」
「相手次第で付き合うかもしれない男、だろ。
そう切り返したってことは、要するにあいつの方にも少なからず好意がある。姫としてそばに置いてるが、あいつ個人の感情を邪魔するのは違う」
いつみ先輩の言うことは正しい。
例えばいつみ先輩が南々先輩のことを好きじゃなかったら誰もこの話は引き留めたりしないだろうし、そもそもお姫様に男が近づくのが面白くない、ってだけで。
「……ほかの男に姫のこと取られてもいいの?」
「あいつがそう決めたなら、仕方ないだろ」
「でも、好きな男とは一言も言ってねえんだよ?」
「それなら尚更、余計な揺さぶりはかけてやるな」
そう言ったいつみ先輩に、しぶしぶ椛先輩は頷いたけど。
自分の腑に落ちないことにはとことん納得できないタイプの椛先輩が、当然そう簡単に引き下がるわけもなく。
「……バレたら怒られると思うんですけど」



