「憧れてると、思う」
「、」
「たぶん、わたしはどうしたってそういう経験ができないから。
経験できないって言い方はおかしいんだけど。きっと、すきなひとと付き合うとかそういうの、経験しないと思うから」
憧れてるかもしれない、と。
独り言のように零した南々先輩が、亜麻色の紅茶をじっと見つめる。
……頭の中にいるのは、誰なんだろう。
「いるんですか? すきなひと」
ストレートに。
聞いた瞬間視線がいくつか俺に刺さったけれど、一貫して彼女から視線を逸らすことはしない。何か変わったそぶりがあれば、わかるはずだけど。
「ううん……いまは、いないかな」
そう答えた南々先輩は、本当にいつも通りで。
好きな人は、どうやらいないらしい。
……いまは、だけど。
「じゃあ、さっきの先輩とも付き合うとかは、」
「え? ああ、大和……?
それに関しては、わたしにはそういう意思はないけど、大和次第、としか言えないかしら」
「え、」
「だって大和……
今も、昔と変わらずわたしのこと好きでいてくれてるんだもの」



