「……いつみ先輩?」
なぜか彼にじっと見つめられていることに気づいて、首を傾げれば先輩がわたしに手を伸ばす。
いきなりのことにかちりと固まれば、彼の手はやさしくわたしの頭を撫でただけ。
しかも本当に何も言ってくれないから、先輩を見つめ返すこと数秒。
「ななせ」とわたしを呼んだルアの声に救われて、そちらへと視線を向ける。それと同時に頭の上から重みが消えた。
ちょいちょいと手招きされて、双子の元へと駆け寄る。
どうしたの?とルアに声をかければ、「呼んだだけ」らしい。綺麗な見た目でそれはずるい。思わずよしよしと子ども扱いしてしまうわたしに、ルアは猫みたいに目を細めて首筋に顔を寄せた。
「……すっかり懐いてるわね」
「ルアってルノとの関係以前に、
もともと人間嫌いだったんじゃねーのかよ」
夕帆先輩と莉央の言葉を聞きながら、やわらかい髪を撫でていたら。
キッチンから出てきた椛が「楽しそうなことしてるじゃねえの」と笑う。その手にあるトレーには、大きなお皿に入ったサラダと、人数分の小皿が乗せられていた。
「手伝った方がいい?」
「ん? もうちょいで出来るからいいよ〜。
ルアちゃん、いつまで姫にひっついてんの?」
「ななせ、あったかい」
「そりゃあ、あったかいだろうけどよ〜。
おまえの双子の兄ちゃんが恨めしそうな顔してるじゃねえの。自分も姫にくっつきたいのに、って」
「……してません」
「るーちゃんはわかりやすいねえ」
サラダとお皿をテーブルに乗せた椛は、「もっと素直になってもいいと思うけどな〜」なんて言いながら。
トレーだけを回収して、もう一度キッチンへと入っていった。



