「……なにがあったか、覚えてる?」
聞かれて、小さくうなずく。
脚を動かそうとすれば痛みが走って、起き上がるのはあきらめた。脚が痛いことに気づけば、節々の痛みにまで気づく不思議。
「王学の、特進科を受けた子が、受験に落ちて。
……腹いせに、階段から突き落とされた」
「……お前の親父さんが、その子の親と話すってさ。
さすがに八王子の息子傷つけたんじゃ、ただじゃ済まないだろ」
「……、いろは。
ぼくのケータイで父さんに連絡して、「処罰なんてなくていい」って言っておいて。怪我もどうせ大したことないからって」
「ルア、」
その子は、泣いて、怒ってた。
絶対に王学の特進科に合格するってまわりのともだちにも、教師にもお墨付きをもらうほどの成績のいい子だった。──その子が、落ちた。
塾にも通って、その子がすごく努力しているのは、同じクラスなら誰もが知っている話だった。
落ちた明確な理由は、ぼくは王学の責任者でもなんでもないから知らない。だけど。
『実力のある第一王子が受かるならまだわかる……っ!
でも、"八王子"の名前にしかすがれない第二王子なんかがいるからっ、』
ぼくが受かったから、その子が落ちたわけじゃない。
だけどすごくふしぎなはなしだと思わない?
ぼくを知らない誰かに、八王子の名前を捨てろと言われることは多い。
だけどまた別の、ぼくを知らない誰かには、八王子の名前にすがっていると言われる。
生まれた家が、偶然に八王子で。
偶然に出来のいい双子の兄がいて、偶然ぼくの出来が悪かっただけなのに。
「……すくなくともあの子の方が、ぼくよりもよっぽど実力のある人間だよ。
言われたことだって事実だから、」
まっしろな天井を見つめながら、つぶやく。
広々と用意された個室。ベッドに備え付けられた簡易テーブルに、椛が思いっきり手をついたことで、バン!と大きな音が鳴った。



