「……黒髪、似合ってたのに」



「んー、やっぱ黒髪落ち着かねえじゃん?」



卒業したので我慢が限界だったのか、卒業式の翌日にはもう髪がオレンジになっていた。

だけど奇抜な単色のオレンジじゃなくて、落ち着いたオレンジベージュ。ぼくからすればオレンジベージュの方が落ち着かないけれど、椛はそうじゃないらしい。



「それに。何かしらの印象って、大事だろ」



「………」



「八王子の名前を背負う、お前らに。

なんかあったとき、オレンジの髪色の男に、連絡が来るようにしとくんだよ」



そこまで責任を感じる必要なんてない。

ぼくたちにとって椛はそばにいてくれるだけでいい存在だった。だけど何をどう伝えたって、椛の「万が一」「念のため」といった予防線が消えることはなかった。




万が一なんて、来ないに越したことはない。

だけどそれでも椛の考え方が正しいと知ったのは、椛の卒業から11ヶ月後。──3年生になったぼくらふたりの、受験の合格発表が、出た日。



「……、」



「ルア……目、覚めた?」



──目を開けたら、真っ白な部屋の中。

独特な薬の匂いで、病院だということはわかる。



「……椛? ルノ、は?」



「ルノは……家にいる。

荒れてたのはなんとか落ち着かせけど、いまはまともに話せる状況じゃねえよ」



ルノ、と。心の中で片割れの名前を呼ぶ。

共鳴してる。ルノの重くて哀しい感情と、どうしようもなく湧き出す怒りの感情が、ぼくのもとに共鳴してる。……ルノが、すごく、傷ついてる。