聞けば、ルノは「べつにいいよ」とため息をこぼす。

……椛にぼくを取られたのがいやだったのか、それともぼくに椛を取られたのが、いやだったのか。



「それより椛先輩、

なんで夏休みなのに制服着てるんですか」



「ん? 補習よ、補習。

頭の良いるーちゃんには縁のない夏休み補習。しかも俺受験生だからさぁ、下級生より長いんだわ〜」



ふっと笑ってぼくの髪から手を離した椛は、そう言ってだるそうに欠伸をひとつ。

ぼくとルノ、そして椛が通う中学は、私立なだけあって生徒同士の闘争心がやたらと高かった。格差、という言葉が明確にあったようにも思う。



その環境の中で、案の定目立つ八王子の存在。

しかも、タチが悪かったのは。



「あんたがいるからルノくんの評判まで悪くなる」と。

なんの関係もないのに、ルノの表面上だけを賞賛して寄り付く面倒な女子生徒たち。



言い返さないぼくがそうやって女の子に呼び出されることは多くて、

偶然通り掛かった椛が、「いまの会話録音したけどその"ルノくん"に聞かせていい?」と、ぼくを手助けしてくれたのが、関係のはじまりだった。




女の子たちに、モテている椛。

その椛が「嫌なら二度とルアのこと呼び出したり近づくなよ」と言ってくれたおかげで、女の子からそうやって呼び出しを受けることはなくなって。



あとからその事実を知ったルノも一緒に、懐いているというわけだ。

家が近かったこともあって、椛はこうやってよく遊びに来る。



「いや、椛先輩こそ学力悪くないじゃないですか」



「ん〜? 

女の子と遊んで授業サボってたら、授業日数やばいことになっちゃったんだよねえ」



「……ばかですか」



「うわ超真顔じゃん。

ルア、お前の兄ちゃん俺につめたいよ〜」



椛は、八王子の名前なんて気にせずに一緒にいてくれた。

ただの先輩後輩っていう関係でしかなかったけど、いつだって八王子の名前が重荷になるぼくたち双子にとっては、なによりも大事なつながりだった。