「一通り準備はしてあるし、今は寝てるから。
面倒見るって言っても、ただそばにいてやってくれればそれでいいよ」
「……うん」
「いっちゃん相当イライラしてたからな〜。
1時間ちょっとあればもどってこれるだろうけど、なんかあったら俺のケータイ鳴らして」
「……わかった」
わたしも高熱の看病くらいできるし、用意してくれている上にそばにいるだけなら困ることはない。
返事を聞いた椛は、瞳をゆるくほそめてわたしの髪をよしよしと撫でた。
「ルアのこと、よろしくな」
あ、と。
思わずこぼれそうになった声は、喉の奥で熱くなって散る。
深いその声色。たった一言で、わたしを信頼してくれているのだと知るには十分だった。
ルノくんが、椛とは同じ中学の先輩後輩だと、以前言っていたけれど。お互いに信頼し合っていることは、言われなくても気づいていたから。
その信頼している大事な後輩を。
たとえ緊急事態であれ、わたしに任せてくれる。
「じゃ、行ってくるわ」
「うん。……いってらっしゃい」
先にいつみ先輩はC棟を出ていったから、椛を見送ればリビングにはわたしだけ。
高熱だって言ってたしはやく行こうとバッグの中からスマホをスカートのポケットに忍ばせ、文庫本だけを持ってリビングを出ると、2階へ上がる。
リビング側にある階段から、いちばん近い部屋。
渡されたカードをシステムにかざせばかちゃりと鍵が開いて、「お邪魔します」とゆっくり足を忍ばせる。
ワンルームマンションのような部屋の中。
窓にはカーテンがかかっているけれど、昼間だからか室内は明るい。そっと足を進めれば部屋の隅にあるベッドには、思わず息を呑んでしまうほど綺麗な男の子が眠っていた。



