そんな場所でも躊躇いなく進める人間に対して、「強い」と思うか「デリカシーがない」と思うかは、相手次第。
はたまた奥手な人間に対して「臆病」だと思うか「慎重」だと思うかだって、同じことだ。
「お前がついてくるって言うなら、
俺はいくらだってお前に手助けしてやる」
はっきりと言い切るいつみ先輩を、見上げた。
どうしてだろう。……なんでも、できるような、そんな気分にさせられる。
「どうする? 南々瀬」
はじめて会った時、何か違うものを持った人だと思った。
こんなわたしでもいいんじゃないかって、そう思わせてくれるこの人は。
「すべてお前が決めれば良い。
俺は。大事なヤツを、沈む船には乗せねえよ」
常に一歩前を歩いているのに。
わたしが立ち止まったら、同じように立ち止まって、待っててくれる。
「……なら、乗せてください」
知らなかったの。
ここに来るまでは、捨てることよりも手に入れることの方が難しいってこと、知らなかったから。
「わたしが乗って、沈んでしまう船なら。
そのときはわたしが、沈む前に飛び降ります」
「ははっ、良い根性してんじゃねえか」
「言いましたよね、わたし。
ここに入る時、後悔する気で入るわけじゃないって」
恐れてばかりじゃいられない。
恐れることを恐れない時が来たら、その時はきっと。──わたしが、わたしを捨てる時だ。
「やっぱりお前を選んで正解だった」と。
楽しげに口角を上げたいつみ先輩が、わたしの手を引く。その船が沈むかどうかなんて、まだ。──片足を乗せただけじゃ、誰にもわからない。



