「……納得いかない、って顔だな」
「………」
「仕方ねえんだよ。
何も感じずに生きてるヤツなんか、どこにもいねえから。……ただお前が納得いかないんだとしたら、それはあいつらとの距離感だろ」
「……距離感、ですか?」
「ああ。俺らは既に、お互いを知ってる。
でもお前は新しくここに来たわけで、知り合ってからの時間も関係もまだ浅い」
それはそうだ。
わたしはロイヤル部に入ることを決めてからみんなと過ごす時間が増えたけれど、それでもみさとや大和の方が仲が良い。
出会って、知り合ってからの時間がマイナスになることは、絶対にない。
一分一秒でも絶対に増えていくもので、そこに相性や仲の良さといったものが関わってくることで、新たに関係が出来上がる。
「でもお前が、その距離感を気にしてんなら。
……随分と成長したと思わないか?」
いつみ先輩は不思議な人だ。
絶対王者なのに威張っているわけでもなければ、何か口を挟むわけでもない。ただそばにいるだけなのにすべて知っていて、無条件に愛される人。
「距離感を気にするのは、少なからず相手に好意があるからだ。
嫌いな人間に近づきたいなんて思うヤツはいない」
「そう、ですね」
「南々瀬。
知りたいなら、覚悟決めてついてこい」
両親は昔からわたしにいくつもの選択肢を与えて、わたしはそこから好きなものを選ばせてもらっていた。
だから危険という言葉とは無縁で、そんな生ぬるい場所でしか、生きてこなかったから。
自分で覚悟を決めるというのは、勇気がいる。
安全な場所に足を踏み入れることを躊躇する人はいない。だけどいつ危ないものを踏んでしまうかわからない場所となれば、誰もが慎重になる。



