「……、なんですか?」
「今日の放課後、家まで送る。
……俺は話をつけに行ってくるから、もどってくるまで絶対におとなしく待ってろよ。いいな?」
有無を言わせることのない声。
王宮学園という城の中で覆りはしない、絶対王者。──外部では裏返るその事実も、ここでは全くと言っていいほどにアテにならない。
「はい、」
待ってます、と。
そう返事しようと口を開いた瞬間に、うしろでガタン!と大きな音がする。
なに、と考えるよりも早く。
反射的に肩を跳ねさせ振り返れば、ルノくんがテーブルに片手をついていた。どうやら重心が傾いたことで、とっさに手をついたらしい。
……いまここでバランスを崩した、ってこと?
「すみません、南々先輩。
……驚かせてしまいましたよね?」
「それは大丈夫、だけど」
ルノくんは……?と。
わたしが疑問をたずねるよりも早くに椛が席を立ってルノくんを連れて行ってしまったせいで、それ以上は何も聞けなかった。
「心配するな。
……ルノのことは、椛がいちばんよくわかってる」
「……はい」
そっと頭を撫でられて、うなずく。
莉央が「椛の手伝いしてくる」と部屋を出ていけば、リビングには必然的にわたしといつみ先輩のふたりきり。
気まずいわけじゃない。
なのになぜか、ひどく息苦しかった。