「それで、結局お前は何しに来たんだ」



わたしの肩に顎を乗せながら、いつみ先輩が問う。

軽く腕を解こうとしてみたけれど離してくれそうにないから、あきらめてわたしも彼女の返事を待った。



「ああ、そうだった。

今日の件は姫ちゃんのご両親に連絡したわよ、って、姫ちゃんにご報告を」



「え、それだけのためにここまで来てくださったんですか?

うちの両親のことだから「相変わらず南々瀬はお転婆ね」ぐらいにしか思ってないですよ」



「あら、その通り「お転婆ね」って言ってたわ」



「一連の流れを「お転婆」って言葉ひとつで纏められる南々瀬ちゃんのご両親ってなんなの……」



理解しがたいという表情を浮かべている夕帆先輩。

だけど何を言われても、わたしの家は"こう"なのだ。生きて、犯罪には手を染めず、人に迷惑をかけないのであれば、何をしてもいい、と。




おかげでわたしはそれなりに自由に過ごしているし。

確かに色々なものが、人と違う自覚はあるけれど。



「……お前、」



「……はい?」



「……親、そばにいねえのか?」



振り返れば、予想以上に顔が近い。

間近で漆黒の瞳と視線を絡ませると、囚われたみたいに逃げられなくなる。いつみ先輩のこの視線だけは、ひどく苦手だ。



「いませんよ。

あのマンションに、今は一人暮らしです」



──すべて、

見透かされてしまうような気がするから。