外に出て、会社のビルを見上げた。

青い空に突き抜けるように立つそのビルは確かにすごい。

田舎にいた時はこんな都会で働くことに憧れた。

結果的に小説家として上京できて、都会で暮らせることにわくわくしていた。


実家は信州で雑貨屋をやっている。

地元では守神山と呼ばれる山の麓にある小さな村で森川村という所だ。

何かを買おうとすればうちの雑貨屋で買うしかないくらい、町から離れたところ。

昔は庄屋だったらしい。

だから、店の後ろの母屋はいまだに大きな屋敷で、敷地も広い。

いや、広すぎ。

変に格式だけは残っていて、私が小説を書くという事だけでも許されないことだった。

雑貨屋をやっているくせに。

いつもそう思っていた。

ただ、うちの雑貨屋がなくなると確かにみんなが困る。

うちの村も多分に漏れず、高齢化が進んでいる。

跡を継ぐ人間が必要なのは確かなのだ。


私は一人っ子だ。

そのこと自体も未来のない感情を抱かせていた。


「村を出たい」

それは小さい頃からの思いだった。


中学の頃のある日、移動図書館で借りて読んだ物語に感動した。

その時に気付いた。


「こんな田舎にいても夢を見ることはできる」


自転車で1時間かかる学校の図書室でいろんな本を読んだ。

部活もやってないのに帰りが遅くなり、よく母に叱られた。

そのうち学校の図書室では、めぼしい本はなくなった。

休みの日には町の図書館まで出掛けることもあったが、少ない小遣いでバス代を出すのがもったいなくて、自転車で2時間かけて行った。

その結果、読む時間が減るのも事実だった。


そのうち、私は自分で物語を考えるようになった。

いろんな物語を自分で想像して過ごすうち、それを書きたくなった。

それが、小説家を目指すきっかけになった。