資料室を出る時、ガラス戸の棚の中に「新聞記事 森川村関係」と書かれたファイルを見つけた。

どうやら、記事をスクラップしていたらしい。

途中1冊分が抜けているような隙間があった。

これはタケルが見たはずだ。

戻し忘れたのがあるのだろうか?

辺りを見回したが、それらしきファイルはなかった。

前から抜けていたようだ。


「タケル、この新聞記事のファイルには子守花って出てこなかったの?」

もう部屋を出ていたタケルが振り向かずに言った。

「いいや、何も」

「皆美、ほら、もう遅いから帰ろ」

香澄がそう言って私を後ろから押した。

「でも…あ、タケルの事故の時のとか載ってるかな?」

タケルが戻ってきてドアの所から顔を突き出した。

「無かったよ。子供がちょっとケガしたくらいで記事になるかよ。ほら帰るぞ」

「うん、さすがに私も眠いぃ~」

香澄はいかにも眠いという感じだ。

「ごめんごめん、ほんと、もう2時だね」

私は先に外に出た。

だから、後ろで鍵を閉める時に顔を見合わせたタケルと香澄の表情から、笑みが消えたことに気が付かなかった。



3人で言葉もなく、虫の音がすごい夜の道をゆっくりと歩いた。

疲れは感じない。

ただそこにあるのは、そばに友達がいる安心感と、幸せな時間だった。

こんな時間がずっと続いてくれればいい。


そう思った。


ふと見ると香澄が大きなあくびをしていた。

「香澄、眠い?」

「うん…さすがに疲れたぁ~」

「タケルは?」

「いや、おれは別に」

「オトコだもんね。香澄、ごめんね」

「いいよ。オンナだけどがんばるぅ~」

香澄は、力なく手をおーって感じで挙げた。

「香澄、力ないじゃん」

「そうだね~」

「あはははは」

私たちは虫の音に負けないように笑った。