もう泣いてもいいよね

「子守花…」

確かにそう書かれてあった。

これを書いた宮川さん自身は守神山を探し回ったが、実物を見つけることができなかったみたいだ。

結果的に村人から聞いた話を書いている。

「白い花が年中咲くが、満月の夜しか咲かない」

「正式名は不明」

「子守花の名前の由来は不明」

「満月の夜に咲くその花は霊力を持つ」


え?


「タケル!香澄!」

「なになに?」

タケルと香澄がやって来た。

「見て!こんなこと書いてる!」

私は嬉々としてそのファイルを見せた。

香澄がのぞき込んだ。

「満月の夜…霊力…」

タケルが次の記述を読んだ。

「その霊力は人を蘇らせる…」


でも、次のページをめくると、子守花のまとめにはこう書かれてあった。

「そういう話ばかりで、実物は見つからなかった。また、実際に見たという者も見つからなかった。森川村でしか伝承されていないことから、ここだけの固有種だと思われたが、その存在自体が、ただの伝説だと思われる」


私はその文章を読んで軽い目眩を感じた。


「伝説…?伝説なの?存在しないの?」

私は何か支えを失ったような気がした。


「違うよ!伝説じゃない。おれはこの目で見たんだ」

タケルが私の肩をつかんだ。


「うそ、見たことないって言ったじゃない」

「だって、あの日、おまえに言ったろ?おれが子守花のある場所を知ってるって」

「あの日…?」

「そうだ、あの日だ。あの日だって、ちゃんとおれは取ったんだ。白い花を」

「それでどうしたの?」

「わからない。崖から落ちた時は確かに手に持っていた。でも、病院に運ばれた時はもう持ってなかったから…」

「ほんと?本当に子守花はあるの?」


「あるわ。うそついてごめん」

後ろで香澄が言った。

私はゆっくり振り返った。

「香澄…」

「ごめん。皆美が見たことないって言ったから言えなくて」


私は、失いかけた支えを取り戻した気がした。


「ありがと。ほんと二人とも優しいよね。いつも私のことを考えてくれてるんだよね。だからでしょ?」

「皆美…」

香澄は戸惑い気味にだが、笑顔に変わった。


「うん。わかった。二人がそう言うのなら、絶対にある。あるよ」

私は手をぐっと握ってうなずいた。