もう泣いてもいいよね

「皆美、書物はこっちの部屋だ」

タケルがさらに次の部屋から呼んだ。

ドアの上に「資料室」と書かれていた。

中に入ると、18畳くらいの部屋で壁際にはガラス扉付きのキャビネ、部屋の半分には図書館風の書棚が数本並んでいた。

その数から言っても言うほどの蔵書じゃない。

ちょっと期待外れだ。


「じゃあ、私はこっちから見ていくね」

奥の方から香澄が顔を出した。

「うん。じゃあ、私はこっちから」

私は壁際のガラス戸のキャビネを見ようとした。

そのキャビネの中をちらっと見たタケルが、私を押しのけた。

「ここはおれが見るよ。皆美は棚の方を見ろよ」

「何で?」

「い、いや、だって、いちいちガラス戸開けるのめんどいだろうし…」

「あ、わかった!タケル、埃かぶっている本に触りたくないんでしょう?」

「はいはい。そうでーす」

タケルがすねたように言う。

「ほんっと、子供ね」

私は仕方なく、入り口付近の棚から見ることにした。


とりあえず、1冊ずつ見ていった。

森川村のことを書いたもの自体が少ない。

そのうち「森川村史」という題名の本を見つけ、これこそ求めていた本だと思って中をめくったが、いつの頃からか森川家の泉の辺に祠が祭られて「お子守様」と呼ばれいた、子供の成長を祈る人々で賑わった、いつの村長がどんなことをした、どんな災害があったとかしか書いていなくて、昔を知る手がかりになるような記述はなかった。

古いことについては、かなり曖昧な記述なのだ。

戦国時代や戦の記述は全くなかった。


がっかりしながら、次の本を手に取ると、それは本ではなかった。

ファイルだ。

背表紙には何も書かれていない。

めくってみると、「森川村の植物について 北信州大学理学部 宮川晴彦」と書かれていた。

下の方に日付も書かれている。

「昭和40年10月…?」

私が生まれる前だ。

忘れ物なのだろうか。

パラパラと手書きのレポートを見ていくと、それを見つけた。