もう泣いてもいいよね

郷土資料館は村の外れだが、逆にここからは近い。

目立つといけないので歩いていくことになった。

約20分くらいだろうか。

資料館は私が小学校の頃はまだ一人の職員がいて普通に開館していた。

でも、そこが閉められてから久しい。



虫の鳴き声がすごい。

そして、既に暗くなった空はたくさんの星が瞬いていた。

こうやって歩いている目的も忘れて、つい歩みがゆっくりになる。

香澄も同じらしい。

「おまえら、遅いよ」

少し先を歩いていたタケルだけがせかせかしている。

「タケル、そんなに急がなくていいよ」

「そうだよ。タケルも久しぶりでしょ。せっかくだよ。ゆっくり行こうよ」

「あのな…」

タケルは、こいつらは…という顔をしながらも歩みを緩めてくれた。

「都会と違って、暗いよね」

香澄が言った。

「そうだね。都会は明るすぎるよ」

街灯の間隔が都会の比ではない。

街灯の所だけ明るいくらいだ。



そう言えば、子供の頃はこんな暗さのおかげで、満月の夜がとても明るかった。

都会では明るすぎて、そんなことも気付くことがなかった。

便利さの裏側で失ったものがどれだけあるのだろう。



満月の夜はつい外に出て、母さんに怒られた記憶もある。

タケルがいけないんだ。

「皆美、外明るいぞ。出てこいよ」って窓の外から呼ぶんだもん。

庭だけにしようと思っても、気が付くと家の外に出てしまっていた。

家に戻る時の「母さんに怒られる」という感覚が、闇夜に潜む得体の知れないものより怖かった気がする。

言うほど、母さんが怒鳴ったりする訳じゃなかったけど。

母さんは表情で怒るのだ。

それは、言葉よりも怖かった。