「タケル…」

香澄はタケルのところに行き、声をかけた。

「おれのせいだ」

「…」

「おれがいなくならなければ、こんなに寂れることはなかったんだ」

「自分のしたことを後悔するの?」

タケルはハッとした。


「あ、いや…」

「でしょ?」

香澄は確かめるように言った。


「タケルは皆美を守ったんでしょ」

「うん」

「『後悔』はしちゃだめだよ」

「そうだな…」

「ほら、掃除、掃除」

「はいよ」

香澄は車にぞうきんを取りに行った。

タケルは危うく後悔するところだった。

自分の立場を考えると、それは危険なことだった。




「皆美、水出る?」

香澄はバケツを持ってきた。

「ううん。出ない」

私は蛇口を何度もひねってみた。

「元栓見て来てくれる?」

「うん、わかった」

私は裏口から出て元栓を見てみた。

裏口のすぐ横にあった元栓をひねって香澄に声をかけた。

「出た~?」


「出た~」

香澄の返事が返ってきた。

中に戻り蛇口を見ると、最初は少し濁った水が出ていたが、しばらくするときれいな水になった。


「はい、エプロン」

「ありがと」

私と香澄はエプロンをつけた。



「ねえ、香澄」

「なに?」

「ここの鍵どうしたの?」

「ああ、ここが空き家になって、うちで預かってたみたい」

「そうなんだ」


タケルは、うちの母さんにいろいろ世話になっていたって言っていたから、うちで預かっていると思っていたのだ。

さっき感じた違和感はそれか。



中山家は昔はいわゆる庄屋だ。

でも実際には、ここで一番格式が高いのは森川家だ。

その森川家と同じ名前の森川村がここにできた理由って…

それに、お子守様の祠も、鳥居はあるのに「神社」だとかそういう名前がない。


村のこと自体も調べてみたい気がしていた。