私は隣に寝ている香澄が、まだ寝息を立てていないようだったので声をかけた。

「香澄」

「なに?」

「村はどんな感じだった?」

「何も変わらない。いや、前より寂れたかな…」

「そっか」



「母さんには会った?」

聞くのをためらったが、言葉にしてしまった。


「…うん」

香澄も答えるのに一瞬躊躇した。

「元気だった?」

「うん。相変わらずきれいだった」

「そっか」


「あんたのこと頼むって」

「え?今、一緒だって言ったの?」

「うん。ごめん」

「そっか…。いいよ。うん、心配かけるよりそっちの方がいい。母さんも香澄といる方が安心すると思う」

「そう…だね」



私の言葉に少し考え込んだ香澄が一呼吸置いて聞いてきた。

「やっぱり、会わない?」


「…うん。会えないよ」

香澄が何か言いかけたが遮って言った。

「今さら会えないよ…」

香澄はもう何も言わなかった。


「ごめん、もう寝るね」

私は香澄に背を向けてしまった。

「うん」

背中の向こうで香澄が小さく答えた。