部屋に戻ってみたが、香澄はまだ帰ってなかった。

「まだだったね。今夜もお泊まりかな?」

「そうかもな。一度帰ると、いろいろあるだろう」

「そうだね…」

自分が帰った時のことをちょっと想像してみた。

確かに、用事だけ済ませてすぐという訳にはいかないだろう…




その頃香澄は、駅前のファミレスで軽く食事をしていた。

「さて、教えられないとすると、なんて言おう…」

香澄は、皆美に田舎に帰って何を聞いてきたかをどう伝えようかと悩んでいた。

綾女からは、一応、地元の閉館になった「郷土資料館」の鍵を借りてきてはいる。

そこにもほとんど何もないのはわかっているが、「調べる」ことにはなるだろう。

東京で調べても無駄なのはわかっていた。

さらに無駄に東京で調べさせるのも意味がない。


子守花も、お子守様も、元々意味のない当て字なのだ。

たまたま同じ言葉が見つかっても、それは全くの別物だ。

裏祭を隠すための表の祭、六ヶ枝祭。

六つの枝が子供を守るという偽りの言い伝え。

毎年、その偽りの祭を続ける森川家。

いや、守神倭家。

倭の国の神を守る家…

その名前は、何の意味があるのだろう、何のためだろうと、香澄は思う。

でも、子守花とあの祠には何かしらの霊力があるのは確かだ。

現実にその霊力を目にしている香澄は認めざるを得ない。

霊力がどんな霊力かは置いておいて、その「霊力」自体を守っているだけのようにも思える。


「私は何を守っているの?」

香澄はガラスに映る自分に向かってつぶやいた。


「大切な人」

ガラスに映った自分が答えた。