「皆美、見つかったか?」

タケルが飽きたのか、聞いてきた。

「ううん」


時計を見ると15時を過ぎていた。

昨日に続いて中央図書館にやって来た私たちは残りの本を調べていた。

かなりの蔵書だが、知りたい記述がある本がなかった。

この時点で、あと3分の1くらいは郷土史関係があった。


どうしよう。

やっぱり東京じゃ無理なのかな…

私は綾女様に会った方がいいんじゃないかと、少し思い直し始めていた。

でも、香澄が何か聞いてきてくれるかもしれない。

「よし!それまではがんばるか」

気を取り直して、次の本を取った。


そんな私を見ていたタケルは、ちょっとため息をついた後、「よし!」と言って、またページをめくり始めてくれた。



しばらくして、足音が近づいたのでふっと顔を上げた。

昨日の男が目の前に立っていた。

「ひ!」

私は悲鳴をあげかけたが、思わず口を手で塞いだ。

タケルが気付いて私とその男の間に割って入った。

「何だ、おまえ」

男はじっとタケルの胸を見ていた。


「私はここの司書だ」

男は静かに言った。

「司書?」

私が言うと、男は今度は私をじっと見つめた。

「昨日もいたな。何を探している?」

私たちが何も答えずにいると、男は続けた。

「私はここの蔵書について全て知っている。知りたいことがあるなら教えるが」


「ほんと?」

私は思わず聞いた。

「ああ」

男は表情を変えずに言った。

私とタケルは顔を見合わせた。

「お子守様とか、子守花とかの伝説を書いた本を見たことありますか?」

私は恐る恐る聞いてみた。

男は少し考える風だったが、「ここにはない」と言った。


「本当ですか?」

私がそう言った瞬間、男の表情が変わった。

「ここにはない!」

大声ではなく、静かな声で言ったのに、その言葉にはこれ以上ないくらいの冷たさがあった。

思わずタケルが私をかばったくらいだ。

その場から逃げ出したかったが、身体が動かなかった。

「す、すみません…」

謝るしかなかった。

「ここの蔵書は全て知っている」

男はさっき言った言葉を繰り返した。