「ばっちゃん」

香澄は綾女の部屋の前に正座して声をかけた。

「お入り」

香澄が来ることがわかっていたような感じで綾女が返事をした。

香澄は部屋に入り、座ったまま障子を閉めると綾女に向き直って頭を下げた。

「お帰り、香澄」

「ただいま」

香澄が顔を上げると、背筋をぴんと伸ばして正座している綾女がにっこりとした。

相変わらず肌には張りと艶があり若く見える。

さっき会った母の方が年上に見えるくらい…

香澄はそう思った。




「私やおまえが教えても、それは意味がないんじゃないのかい?」

久しぶりに部屋に訪れた孫から話を聞いて、綾女が言った。

彼女は姿勢を少しも崩さず孫娘と向き合っていた。


「なんで?」

香澄は思いも寄らない言葉に戸惑った。

「あの娘が『調べたがって』いるのだろう?」

綾女は言った。

「あ…」

香澄は理解したようだった。


香澄は皆美を綾女に会わせて、早く結論を出した方がいいと思っていたが、それが誤りだと気付いた。


「皆美が望むことをしないと、タケル自身、納得しないと思うが」


「うん、わかったよ。ばっちゃん」

「わかればいい」

綾女は微笑んだ。

そして、言った。

「強くなったね、香澄」

「これは強くなったっていうの?」

「タケルのことを知って以来、今まで友達のために、我慢してきた。そして今も我慢しているんだろう?」

「うん…」

そう言われて何かが切れた香澄は目に熱いものを感じた。

「ここでは泣きなさい。泣いていいんだよ」

綾女がそう言ってくれたが、香澄は耐えた。

まだ、終わってない…

そう思って。



「おまえには子守花のことを教えておくから、あの娘を導いてやりなさい」

そう言って綾女は、しばらく泣くのに耐えて気を落ち着けた香澄に子守花のことを話し始めた。



楓が食事の用意を終えた頃に、綾女と共に居間に顔を出した香澄は、既にいつもの香澄だった。

綾女はそんな香澄を見て、本当に強くなったもんだと思った。