振り返ると、買い物から帰ってきたらしい楓(かえで)だった。

「母さん…」

楓は両手に荷物を抱えていた。

「お帰り。どうしたの?連絡もせずに帰ってきて」

「ただいま。ばっちゃんに話があって」

「そう。早くお入りなさいな」

「うん。一つ持つよ」

「そう?ありがと」

「いっぱい買ったんだね」

香澄は母から一つ荷物を受け取ると、中をちらりと見て言った。

「母さんの指示でね。…そっか。あんたが帰って来るってことだったか」

母は一人で納得していた。



香澄の母である森川楓は、次の巫女となる女性だ。

だから、綾女からいろいろと教えてもらっているが、香澄は楓から受け継ぐ立場であり、まだお子守様について知らないことだらけだ。

ただ、村人は知らないことだが、実は本当の祠とここの祠に子守花が祭られていることは知っている。

六ヶ枝祭は毎年行われているが、「裏祭」が13年に1度、森川家だけで子守花を使い執り行われているのだ。

その時は、全国に散らばっている森川家の親族の内、巫女の補佐として選ばれた者が集まってくる。

香澄は、それに巫女の補佐として1度参加したことがある。

ちょうど小学校5年生の時だ。

そのことは、皆美とタケルにも言っていない。

綾女に森川家以外の者に言ってはいけないと、きつく言われてそれを守っているのだ。


そう言えば、今年は前の裏祭からちょうど13年目だ。


「今年か…」

香澄は小さな声でつぶやいた。



香澄は、荷物を台所に運んだ。

「すぐにお母さんのとこ顔出す?」

袋から品物を出しながら、楓は娘に聞いた。

「うん」

「そう。ご飯まで時間あるから」

「わかった」

楓は娘が何の話があって帰ってきたのか見当がつかなかったが、あえて聞かなかった。

ただ、綾女の部屋へ向かう娘の背中をちょっと心配そうに見ていたのだった。