もう泣いてもいいよね

「香澄がバンドやってるなんてびっくり」

「そう?私、昔から歌うの好きだよ」

「言われてみれば……そうだったね」

私とタケルがふざけてる横で、何かを口ずさんでいた香澄を思い出した。

「もうすぐうちの番だから、聴いていって」

「うん」

私は大きくうなずいた。



この3人がまた揃うとは思ってもみなかった。

「タケル」

私は、横で腕組みして嬉しそうに見ているタケルに声をかけた。

「ん?」

「ありがと」

タケルは笑って昔みたいにVサインをした。

「なにそれ?今時Vサインはないでしょ」

私は笑った。

「ひでーな。今時なんか知らねえよ」

タケルはほっぺたを膨らませた。



ここに来た時演奏していたバンドが終わり、香澄たちが準備を始めた。

わらわらと、香澄たちの前に人が集まってきた。

「こんばんわ。ムーンスプラウトです。今から4曲演奏します。お時間のある方は是非聴いていってください」

香澄がそう言って、そっと目を閉じると演奏が始まった。

ギタリストは踊るように軽やかにピッキングする。

香澄が歌い始めると、その声が身体を貫いた。

「なんて素敵な声…」

子供の頃からは想像もつかない歌声だった。

彼女も夢を見つけてたんだ。

そう思うと、私自身の事のように幸福感に包まれた。



あっという間に4曲の演奏は終わった。

演奏を聴いていた人々が拍手をした後、散らばっていった。

何人かは香澄に声をかけ、CDを買っていた。

その人たちも去った後、香澄が私たちの方にやって来た。