もう泣いてもいいよね

タケルについて行った先は新宿駅の東南口だった。

駅の時計は20:30ちょっと前を指している。

東南口は、高架となっている甲州街道に面していて、かなりの人々が行き交う幅広い階段で降りた所にちょっとした広場があった。

そこでバンドが演奏をしている。

他にも2組のバンドが準備していた。

順番で演奏しているようだ。



moonsprout(ムーンスプラウト)の女性ヴォーカルが、駅の階段を下りてくる二人を見つけた。

「なに?また?」

ギタリストの省吾が聞いた。

「ううん。友達が来た」

彼女は少し声のトーンを落として答えた。

しばらくして彼女は階段の方へ歩いていって手を挙げた。

「友達か…」

省吾はつぶやいた。



「あそこだ」

タケルが一組のバンドの方を指さした。

「ムーンスプラウト?」

小さなライトをつけたスタンドにバンド名らしきプレートを下げていた。

ギターをチューニングしているキャプテンキャップを被った男性と、その横で鎖の手摺りに腰掛けてこちらを見ているヴォーカルらしい女性がいた。

その女性はアースカラーのフレアースカートにGジャンを羽織っていた。

その2人組のユニットらしい。


「タケル」

その女性が、声をかけてきた。

「よお」

タケルは片手を挙げた。

その女性が私をまっすぐ、じっと見た。

「わかる?皆美」

「…香澄!?」

髪は少し明るめの茶髪でちょっとセミロングだが、その目は忘れもしない。

「香澄だ~!」

私は嬉しさのあまり、香澄に抱きついた。

香澄も「皆美~」と言いながら抱きしめ返してくれた。

「皆美…いや、久しぶりだね」

香澄は何か言いかけたが、笑顔で言った。

「香澄、久しぶり!ずいぶん雰囲気変わったね?」

「そう?」


高校の頃まで、香澄はロングの黒髪で、和風的な雰囲気だった。

その黒髪は、見ていると引き込まれるような漆黒だった。

見た目は変わっていたが、右から左へ流す分け方は同じで、のんびりしゃべる所はあまり変わってないようだ。