「じゃあ、やっぱり、母さんは私のこと許してないんだ…」

タケルは急に真面目な顔で私の肩を掴んだ。

「違うよ、それは違う。皆美のおばちゃん、おまえの心配ばかりしていた。それは本当だ」

「いいよ…そう言ってくれてありがとう。でも、私は家を出て行く時の母さんの顔が忘れられないの」


「皆美…」

タケルはうまく伝えられないもどかしさを感じてるようだった。


「ねえ、タケル」

私は笑顔で話を戻した。

「ああ?」

「ずっとそばにいたということは…もしかして、私の裸も見た?」

「!!」

タケルは顔がまるでトマトのように真っ赤になった。

「み、見てねえよ!ぜ、絶対見てねえ!」


「…そうみたいだね」

その慌て振りを見て、私は苦笑した。

「あのな、皆美、おまえ!」

「あとさ…」

「あ…?」

怒りかけたタケルが気をそがれた。


「何度も助けてくれたでしょ」

タケルはまた元の表情に戻って、座り直した。


「ああ」

「やっぱり…」



公園で酔っぱらいに絡まれた時、その酔っぱらいが転がってきた空き缶を踏んで転んだ。

鍋の火をつけっぱなしにしてしまった時も、消火装置もないのに火が消えていた。

飲み会で、男性社員がそばに寄ってきた時は、グラスが倒れて、その社員の服を濡らした。

徹夜明けで目覚ましをかけてなくて遅刻しそうになった時、普通はジリリリリと鳴る目覚ましが、変な風にチリンチリンと鳴って起きた。


思い出せば、小さなことだけど、タケルがやったとすれば納得できることがたくさんあった。

「すごく精神を集中させたら、物に触れる時があるんだ」

「そっか。集中してくれたんだね」

また、タケルが顔を赤くした。


「ありがとう」

私はタケルに寄りかかって、肩に頭を載せた。

タケルは黙って前を向いたまま、また枝を軽く振っていた。