タケルがいなくなるのは裏祭が行われる満月の夜、今年は9月29日の夜中の0時だ。


「あと4日か…」


香澄は、皆美をタケルの最後の時に立ち会わせたいと思っていた。

でも、皆美の心が求めているものが、小説を書くことだと思っていたことが違っていた。


多分、本当に求めていることは…


この間の食事の後、綾女もそうじゃないかと言った。


「もし違っていたら…」


そう思うと、心が震えた。

でも、あと4日だった。

皆美に聞いても、本人が自覚がない。

今からでは確かめようがなかった。

タケルの最後の時に試すしかないし、それがうまくいくかもわからなかった。


香澄は、「彼女」に会いに出掛けることにした。




私は、縁側にタケルと並んで座り、ぼーっとしていた。

「タケル…」

「はいよ…」

タケルもすっかり、ぼーっとするのが板に付いた。

「あれからずっとそばにいてくれたんだね…」

「はいな…」

「13年も…」

「はいな」

「そして、私がタケルに気付いてたった4ヶ月」

「そうだな」


「辛かったよね…」

「…まあな」

それまでぼーっと前を見ていたタケルがこっちを向いた。

「最初は、何度もおまえに声をかけた。触れようとした…」

タケルはまた前を向いた。


「でも、できなかった。しかも、皆美はおれが死んだ記憶を封印していた」

「ごめん…」


「あの頃、村のみんなが、皆美にそのことを隠した。みんながおまえのことを守ろうとしたんだ。だから、おれは嬉しかったんだぜ」

タケルはにこっとした。


「そっか。卒業アルバムもそのせいで、タケルの写真が1枚も…」

「そうだな。ま、いいさ」

タケルは横に置いていた木の枝を手にとっていじり始めた。


「ただ、東京へ皆美が行くことになった時はどうしようかと思った」

「なんで?」

「だって、もう村の人間が守ってくれないし、おれも直接守れない」

「そっか」


私はふと思い出した。

「そう言えば、最初家に来た時は、本当に母さんから頼まれたの?母さんもタケルのこと知ってたの?」

タケルは枝を軽く振っていたのをやめて私を見た。


「ごめん、あれは嘘だ」


私は一瞬生まれた嬉しさが消えるのを感じた。

「皆美が霊が見えるようになったのに気付いたから、ああ言って、皆美の前に現れたフリをした」