その次の朝。


「ごめん、香澄」

ぼーっとした顔で起きてきた香澄に私は謝った。

「なに~?」

「昨日、つい読んだら、あちこち書き直ししちゃって、原稿完成しちゃった」

「え?」

香澄はさっきまでのぼーっとした表情から一瞬のうちに真剣な眼差しになった。


「え?そ、そんなにいけないことだったの?」

私は香澄の雰囲気に普通じゃないものを感じて慌てた。


「完成で…いいの?」

香澄は冗談のかけらも、あのぼんやりさも一欠片もない真剣な顔で聞いた。


「うん…完成」

香澄がじっと私を見つめていた。

「な、なに?」


「ううん。わかった」

「うん」

「そっか、良かったね」

今度は、いつもの笑顔で言ってくれた。

「ありがと…でも、完成しちゃってよかった?大丈夫?」

私は何かとんでもないことをしてしまったかと落ち着かなかった。

「ううん。本当に大丈夫。ちょっと勘違いしてただけ。そうだよ、やっぱりタケルがいなくなる前に完成してた方が良かったよね」

香澄は、タケルがいなくなった後に完成した方が良かったと思ってたのだろうか。


私の不安げな表情がまだ消えてないので、香澄は言葉を続けた。

「ほら、タケルがさ、皆美が物語を完成させたら、安心して、もし成仏しちゃったら困るなと思っただけなんだ」

「え?…ちょっと、じゃあ、タケルは?」

私は香澄の言葉を聞いた瞬間、隣の部屋のふすまを開けた。


タケルが大の字になって寝ていた。


「…よかったぁ~」

私はその場にぺたんと座り込んでため息をついた。


「ほら、だから勘違いだと言ったでしょ。タケルは子守花に触れないと成仏できないんだからさ」

香澄が私の後ろからタケルを見ながら言った。

「あ、そうだった。」

二人で声を出して笑った。


「ん?な、なに?」

その声でタケルもぼーっと起き出したのだった。