ふと、後ろから玉砂利を踏みしめる音が近づいてきたので、慌てて振り返った。

夕焼けに照らされた着物姿の女性だった。

綾女様じゃない。


「母さん」

「あ、楓おばちゃん」


「タケル君、皆美ちゃん、久しぶりね」

「え?やっぱり楓おばちゃんにもタケルは見えるの?」

「ええ。そりゃ、森川家の人間ですもの」

楓はにっこりと微笑んだ。


「でね、母さん…いや綾女様がね、みんなで食事でもどうかって」

「そうなんだ。わかった」

香澄が言った。

「ね、行こうよ」

「うん」

私とタケルが、綾女様の申し出を断るわけがない。



私たちは座卓に並べられた料理に舌鼓を打った。

「これ、みんな楓おばちゃんが作ったんですか?」

「そうよ」

「おいしい~」

「ありがと」

私は隣に座っているタケルを見た。

どう見ても食べているように見える。

料理も減っている。

これが、「そう見えているだけ」とはまるで思えなかった。

綾女様は背筋をぴんと伸ばし上品な箸使いで食べていた。


「皆美ちゃん、お代わりもあるからたくさん食べてね」

楓おばちゃんが声をかけてきた。

「じゃあ、お味噌汁を。本当においしいです」

「そうでしょう。このお味噌、私が作ったのよ」

楓おばちゃんがお味噌汁を注いでくれながら言った。

「ええ~!味噌って作るの大変じゃないですか」

「まあ、うちの分だけだから、そうでもないけどね」

「確か、一粒一粒選別して、冷たい水で洗ってとか…うわあ、おばちゃん、やっぱり想像しただけで大変!」

「あらあら、皆美ちゃんよく知ってるのね?」

「はい、一度作り方を取材しましたから」

楓おばちゃんはなるほどという顔をした。

「そうねえ、昔はどこでも作ってたけど、皆美ちゃんとこは雑貨屋だから、わざわざ作らなくても良かったのよね」

「…そうですね」

家の話を振られてちょっとぎこちなくなった。

綾女様がちらりとこっちを見た。