私と二人の物語

それは3年前のちょうど今頃、悟は24才、美緒はまだ大学4年だった。

悟は北野町のとある異人館への石段を上っていた。

その時、

「落ちそうですよ」

その声に彼が振り返った瞬間、ジッパーの壊れたカバンから木製の画材入れが落ちた。

それは階段を滑る様に落ちて行った。

声を掛けたその女性がそれを受け止めたが、バランスを崩した。

「危ない!」

悟のその声も虚しく、彼女は階段を数段落ちた。

「君!」

彼は階段下に横たわった彼女に触れかけて躊躇した。

「だ、大丈夫ですか!」

とりあえず、女性に気安く触ってはいけないという思いもあって、慌てながら声だけ掛けた。

「あいたたたたた…」

彼女はゆっくり身体を起こすと、

「大丈夫です」

と、笑った。

悟はその時、既に、その笑顔で恋に落ちていた。

「あー、擦りむいちゃった」

彼女のその声にハッとした悟は、彼女の視線の先を見た。

画材入れを庇いながら落ちたので、彼女は左手や左の足を擦りむいていた。

「いけない!手当てしなくちゃ!」

「あははは、これくらい大丈夫です」

彼女は石畳の上にペタンと座って、コートの袖をめくり上げて怪我の様子を見ながら言った。

「血が出てる。とりあえず俺の家に。すぐそこなんだ」

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

彼の必死さに、彼女はくすっと笑いながら手を預けた。



それが二人の出会いだったらしい。