私と二人の物語

「あ、私、まだ名前を聞いてない…」

「あ、ごめん。俺は…」

彼は言い掛けて、間をあけた。

「さとる。…森山、悟」

区切るように名前を言った時、彼は確かめるような言い方と表情だった。

きっと、その語感に賭けたのだろう。

「もりやま…さとる」

私も思い出すように呟いてみたけど、その記憶はない。

呼び方は「さとる」か…

名前を知ってしまうと、私の方が躊躇した。

彼は「美緒」と呼んでくる。

私は何て呼べばいい?

「悟でいいよ」

彼はそれに気付いたように言った。

私は心の中で何度か呼んでみた。

素直にそう呼ぶのは難しそうだったけど…

「悟?」

「うん、それで」

「わかった」

私は口調も変えた。

「悟って、いい名前だね」

「え?」

「いろんな物事を悟ると、余裕ができて人に優しくできる感じ。実際、悟は優しそう」

「…ありがとう」

彼はすごく嬉しそうに言った。

「ねえ、悟のこと、そして私とのことを教えて」

「うん、いいよ。時間は大丈夫?」

「大丈夫」

悟は、出会ってからのことを話し始めた。