私と二人の物語

「あ…」

そこには一人の女性の肖像画が描かれていた。



「君だよ」

確かに。

その顔は鏡を見ているようだった。


でも、それはどう見ても未完成だった。

ラフなタッチで描かれた、まだ下地だけみたいな室内の中に座る私は、頭から肩の辺りまでだけが細かい筆が入れられていた。

その下は椅子に座った様子が分かる程度のやはり下地だけ。

多分、普通は、一部だけこんなに細かく描かない。

それはきっと、突然いなくなった私をそこに残すため…

「…ごめんなさい」

私はそう言うしかなかった。

「ううん、いいんだ」

彼は軽く首を振った。


私は、もう一度その絵を見た。

「幸せそうな表情…」

思わず笑い出すのを一生懸命堪えるような笑顔。

これを描いてる時はきっと何度も吹き出しながら、

『動いちゃだめだよ』

『だって~』

『だから、動かないで』

『ぷっ』

『美緒~』

そんなやり取りをしていたんだと思えた。

そんな胸を打つくらい幸せそうな表情だった。


「俺はその続きを描ける?」

その台詞に私は振り返った。

「…うん、描けるよ」

私は、笑顔を作ってそう言った。

彼はさりげなくだけど、すごく嬉しそうに笑った。

この絵を完成させてあげることは、今の私には義務だと思った。

私はとりあえずさっきのように白い布を絵に掛けた。