私と二人の物語

向かいのホームの天井から下がる時計を見た。

まだ、15時を過ぎたばかりだった。

「あの、悟さんは…、ううん。悟はどうしてここに?」

「ああ、六甲山に登っていたんだ」

彼はそう言うと、カバンからスケッチブックを取り出した。

六甲山へはここからバス15分くらいの北側にあるケーブルカーで登ることができる。

「これを描いていたんだ」

彼が見せたのは六甲山からの風景だった。

多分、山頂のところにあるおしゃれな展望テラスからの景色。

ペンで部分的に輪郭を描いたものに淡い色彩が塗られていた。

「綺麗…。悟は、画家なの?」

「…似たようなものだけど、イラストレーター」

「風景も描くの?」

「これは…どちらかというと、趣味かな。本の挿し絵とかも描くから風景も描くけど」

「そうなんだ。へぇ~」

私はもう一度、その絵を見た。

目の前に広がる山上からの神戸の景色。

あの空間を感じて、なんかホッとする絵だった。

そのスケッチブックはまだ使い始めみたいで、その絵だけだった。