そんな雰囲気で案内されたのは、町役場から車で10分も掛からない高台にある、昔は庄屋だったという梅木家だった。

忍は立派な門構えの前の空き地に車を停めた。

「奥様に声掛けてきますので、ちょっと待っててくださいね」

森下は車から降りたみんなにそう言って、小走りで母屋の方に行った。

家の前は斜面からの木々がこんもりとしていたが、その隙間からは、西川戸の街並みが見えた。

すっきりとしない空も、調べている事がどういうものかを、あらためて雰囲気付けているようだった。


しばらくして、その奥様とやらが森下と出てきた。

かなり高齢だが、小柄で品の良い着物姿の女性だった。

「東京からですか?よくぞ、こんな遠いところまでお越しくださいました。梅木冬子と申します」

「どうも、突然申し訳ありません。東武蔵大学の園山と申します」

「いえいえ。そちらの皆さんは教え子さん達かしら?」

「ええ、まあ」

「そうですか。まあ、何にもないですが、とりあえず中にどうぞ」

「あ、奥様、せっかくですから先に『うつり除け』を見せてもらえたら」

森下が向こうの方を指差した。

「ああ、そうね。じゃあ、どうぞ」

梅木冬子は、森下の指差した方へ歩き出した。


母屋の裏手に大きな蔵があったので、そこかと思ったら、案内されたのはその隣の離れの方だった。

母屋は建て替えられているみたいだか、その離れはかなり古い建築物だった。

「こんなんですけどね、まだまだ使えるんですよ」

「いや、立派ですよ」

教授は頷いた。

「ああ、あれですね」

遥香が窓を見た。