「で、この『うつり除け』というのが何なのかわかりましたか?」

教授が書類の中でうつり除けと書かれた写真を見ながら聞いた。

それは、普通の窓と雨戸の間に付けられていて、鉄の格子状の鎧戸みたいなものだった。

「いやあ、それが、電話でも言いましたが、よく分からないんですよ」

「そうなんですか…」

「かなり高齢の方々にも、ちらっと聞いてみたんですが、この町には、もう本来の由来を知っている方はいませんでした」

「この形からは、雨戸だけでは防げないものから守る感じですよね?」

「ええ、普通なら泥棒、昔なら盗賊除けですよね。でも、昔は商家だけでなく、どんな家にも付けられていたらしいんですよね」

「え?それも全部鉄製で?」

遥香がそのうつり除けの写真を見ながら言った。

「いや、さすがにほとんどの家のは木製だったみたいです。その写真は商家か裕福な家のですね」

「それでも、ほとんどの家にっていうのはすごいわね」

季世恵がその写真が載った郷土史誌を教授から受け取って言った。

「確かに。昔、この辺は村がいくつかあっただけの地域で、特に特産品もなかったですから、泥棒とか盗賊を気にするほどじゃなかったはずなんですよね」

「何か、危険な動物とかは?例えば熊とか」

忍が言った。

「まあ、昔はいたかもしれませんが、特にここまでして防ぐほどだったとは聞いたことがありませんね」

「ですよね~」

忍が苦笑した。

その間、教授が書類を見ていたが、それを遥香に渡した。

やはり、特に参考になる内容はなかったみたいだった。


「それで、どこかで実際に見られますかね?」

「はい、見られますよ。そうおっしゃるんじゃないかと、先方には了承をいただいています」

森下がにこっとした。

「それは、素晴らしい。ありがとうございます」