うつりというもの

気が付くと、かなり時間が経っていた。

そろそろ季世恵さんが出てくるだろうと、遥香は気怠そうにベッドの上で起き上がった。

窓の外を虚ろに見ていたが、ふとガラスに映る室内に違和感を感じた。

遥香はそのままガラスに映る室内の中で、その違和感を探した。

「あ…」

遥香はその違和感の元に気が付いた。

あの白い服の女の子がドアの所に立っていたのだ。

遥香は慌てて振り返った。

すぐ目の前に女の子が居た。

「きゃあ!」

遥香は驚いてベッドの反対側に落ちた。

頭から床に倒れたまま見ると、ベッドの上から女の子が見ていた。

「あ、大丈夫だから」

遥香は頭をさすりながら起き上がると、床の上にぺたんと座った。

女の子が大きく円らな瞳で見つめていた。

遥香は軽く溜め息を吐いた。


「付いてきたの?」

女の子は頷いた。

「どうして?」

女の子は答えなかった。

自分でもよく分からないらしい。

「名前は何て言うの?」

女の子はやっぱり答えない。

ただ、遥香をじっと見つめていただけだった。

「そっか」

疑いようもなく、この子は霊だろう。

でも、いつもの空気が重くなったり、鳥肌が立つあの感覚がなかった。

遥香はそれが不思議だった。

ただ、悪い気は少しも感じなかった。

最初はびっくりしたから怖かったが、今は落ち着いていた。

「お待たせ」

バスルームのドアが開いて季世恵さんが頭を拭きながら出てきた。

その瞬間、女の子はいなくなった。

「どうかしたの?」

季世恵さんが手を止めて、床に座ったままの遥香を見ていた。

「あ、いえ。じゃあ、私も入りますね」

私は着替えを出してバスルームに入った。


うつりに何か関係あるかもしれなかったが、遥香は、季世恵さんを怖がらせてもいけないので、何も言わなかった。

日頃教授の趣味を手伝ってはいるが、季世恵さんが本当は霊とかそういうのを苦手だというのを遥香は知っていた。

それに、調べていくうちに、何か分かるかもしれないとも思っていた。