うつりというもの

21時過ぎに、弘前市内のビジネスホテルに着いた。

忍はホテルの横の専用駐車場に車を停めた。

みんなが降りると、忍はバックドアを開けて教授達の荷物を手渡した。

自分の分と遥香の分の荷物を残して、まずは前席のゴミを片付けようとした。

「後ろは私が片付けるね」

遥香が言った。

「ありがとう」

忍がにこっとすると、遥香は後部ドアを開けた。

その時、忍はドアの下に車から降りる黒い靴を履いた子供の足を見た。

「え?」

忍はヒョイっと後部ドアの向こう側を見た。

目の前には、座席に膝をついて向こうのゴミ袋を取ろうとしている遥香だけだった。

「あれ?」

「なに?」

遥香がそのまま顔だけ向けた。

忍から見ると、遥香のスカートが捲れて太ももの上の方まで見えそうだった。

「あ、スケベ」

「あ、いやいや、そんなんじゃなくて…」

「なによ?」

「いや、いい。ごめん」

忍は首を傾げながら謝った。

「はい、これ」

遥香は後部ドアを閉めると、ゴミ袋を忍に渡した。

そして、荷物をそのままに、さっさとホテルに歩いて行った。

「…はいはい」

忍は、荷物2つとゴミ袋2つを抱えてホテルに向かった。