うつりというもの

まずは一番遠い青森まで行って、そこから戻りながら調べることになった。

本当は山形の、とある旧家にあるという『うつりの絵』を先に見ることができればよかったが、今のところ、その所在がはっきりしなかったし、青森の『うつり除け』も気になった。

青森まで車で8時間掛かるので、今夜はそのまま弘前市のビジネスホテルに泊まるだけになる。

運転席に忍、助手席に遥香、そして後部座席に園山親子が乗った。

「じゃあ、出発しますね」

「ああ、よろしく」

忍は左右を確認すると車を発車させた。


途中、運転を教授と適度に代わりながら、車は青森を目指していた。

こんな時間、青森に向かう車は少なく、マイペースで走ることができた。

遥香は、ライトの中で同じリズムで点滅する様に見える白線に意識が引っ張られていた。

運転している教授が、助手席に座る遥香のその表情に気が付いた。

出発前は少しはしゃいでいる感じだった彼女も、少し疲れたのか本当の気持ちを出していた。

教授は、何も言わず、ただハンドルを握り直して、気を引き締めた。


夜になって、遥香のケータイに赤井から着信があった。

例の多摩川下流で見つかった17年前の遺体が、遥香の母親だったらしい。

「すぐに戻れないので、父にも連絡しておいていただけますか」

遥香はそう頼んで電話を切った。

研究室では普通に話していたが、実際にそうだと分かると、遥香も教授もその事について言葉にできなかった。

遥香が外を見ていただけだったので、教授も前を向いて運転を続けた。

その雰囲気に、季世恵と忍も何かを言える訳がなかった。