うつりというもの

東武蔵大学園山教授研究室


二日後の昼過ぎ、渕上遥香、松山忍、園山教授、園山季世恵の4人が集まっていた。

「先生、季世恵さん、お久しぶりです」

背の高い松山忍は、二人の頭よりも低く頭を下げた。

「相変わらず、でかいね、君」

「でかいわね」

忍は180cm。

教授より10cm、季世恵さんより15cmくらい高い。

「あははは、すみません」

忍は頭を掻いた。

「でも、急に悪いな」

「いえいえ、遥香の頼みじゃ仕方ないですよ」

「そうだろうな…」

教授が少し遠い目をして言った。

やっぱり忍の気持ちを前から知っている季世恵も遠い目をして頷いていた。

「えへへ、忍ちゃんよろしくね~」

「はいはい、任せて。…って、その『ちゃん』はやめてくれる?」

忍は、約20cm低い遥香を見下ろしながら言った。

「松山君と呼ばれるのと、どっちがいい?」

遥香が下から覗き込むように首を傾げた。

「……」

忍は右手で頭を押さえると、首をゆっくり振っていた。

「おいおい、せっかく手伝ってくれるんだから、そんなにいじめるなよ」

「いじめてませんよ。忍ちゃん、根っから優しいですから。フェミニストだもんね?」

「えっと、まあ…」

忍はちょっと悲しそうに笑った。

季世恵が、哀れみの表情で教授と顔を見合わせていた。

遥香は、昔からそういうことには鈍感だった。

未だに彼の気持ちを本気で理解していない。


「じゃあ、行こうか」

教授が場の空気を変えるようにさっさと荷物を担いだ。

「はい」

それにノるように忍も荷物を担いだ。

「はい、これ」

その忍の前に遥香が、自分のバッグを差し出した。

「…はいはい、って、重いな」

「そりゃ、女はいろいろありますから」

遥香はそう言って先に出て行った。

「はいはい」

忍は軽く溜め息を吐きながらも、笑顔で後を追った。