遥香は家へ帰る途中、世田谷西署に赤井達を訪ねた。

面接ブースで待っていると、赤井がやって来た。

「やあ、渕上さん。どうしました?」

「あの、赤井さんだけですか?」

遥香が、赤井の後ろを確認した。

「ええ、三田村なら、ちょっと書庫にこもってるので」

「そうですか」

赤井には、遥香が少しホッとする雰囲気が見えて、内心、苦笑していた。

「で、どうしました?」

「あの…」

「はい」

赤井は少し微笑むと言い淀んだ遥香を促した。

「母の身体の方のことですけど」

「ええ…」

赤井は思いも寄らない台詞に表情が戻った。

「もちろん警察でも捜しています。今、いくつかDNA鑑定にかけているのもあるので」

「あ、そうなんですか。その中に17年前の多摩川下流で見つかったのってあります?」

「え?何でそれを?」

赤井の驚きのとおり、警察はその遺体とのDNA鑑定もしていた。

「あ、いえ、その…知り合いが、それが一番可能性があるんじゃないかって言ってたので…」

「その知り合いってどなたです?」

赤井の表情は少し恐かった。

「あ、すみません…」

遥香もその表情の意味を理解した。

「誰にも言わないでくださいって、言いましたよね?」

「はい…」

赤井はしばらく落ち込んだ遥香を見ていたが、ふぅ…と、溜め息をついた。

「で、その頭の良さそうな方はどなたですか?」

赤井は表情を柔らかくした。

「あ、私の恩師です。東武蔵大学文学部の園田教授です」

「文学部?」

「ええ、でも趣味で妖怪とか物の怪も研究してるので…、あ…」

遥香は言ってしまって固まった。

「…妖怪とか物の怪?」

「あ、えっと…」

「あはははは…」

目の前で赤井が乾いた笑いとともに口元をひくつかせていた。

「すみません!私…」

遥香は深く頭を下げた。

ちょうどその時、

「主任、遥香ちゃんが来てるんですって?」

と、三田村が面接ブースに顔を出した。

「三田村ぁあああー!!」

と、最大級の怒声が署内に轟いた。