しばらくそんな時間が流れていたが、遥香が一息ついて顔を上げたので、教授は机からまた書類を取ってきた。

「それで例の『うつり』だけどな」

「はい。何か分かりました?」

遥香は差し出された資料を手に取った。

「東北の方からこっちにかけて、いくつか伝承的なものがあったんだ」

教授に渡された資料を捲ると、秋田、岩手、宮城での「うつり塚」、青森での「うつり除け」、山形の「うつりの絵」などが書かれていたが、言葉だけなら他の県も一応は挙げられていた。

「これ、東北から関東まで、要するに東日本ですね」

「そうなんだ。西日本では特に引っ掛からなかった」

「ということは、発祥は東北。それも、何となく、かなり北の方ですね」

「そうだな」

「まずは『うつりの絵』が気になりますね。絵自体はなかったんですか?」

「ああ、その絵を見たということが書かれた文書が引っ掛かったが、引用元のブログが削除されていて詳しいことはわからん」

「どれですか?」

「ああ、ちょっと待って」

教授はデスクの方に行くと積み上がっていた書類から探した。

「ああ、これこれ」

教授がその資料を遥香に渡して、彼女はそれに目を通した。

「えっと、ここですね。『山形に旅行した時に、とある旧家でうつりというものの絵を見たが気持ち悪かった』…これだけか」

「そうなんだ」

「でも、気持ち悪かったって…」

「気になるだろ?」

教授はにやっと笑った。

「気になります」

遥香は大きく頷いた。

「じゃあ、行くか!東北!」

「行きましょう!」


「何ですって?」


「うわっ!!」

突然の後ろからの声に教授と遥香は飛び上がった。