「あ、そういえば」
遥香は振り向いたが、女の子は居なくなっていた。
きょろきょろと周りを見たが、どこかに走っていった気配は感じなかった。
「どうかしたんですか?」
赤井が聞いた。
「いや、今ここに女の子が居たんです」
「女の子?」
「ええ、4、5才くらいの。あれえ?」
「私達が渕上さんを見かけた時には居なかったですが」
「え?もしかして、この家に入ったのかな?」
「え!それはマズいですよ!俺見てきます!」
三田村が、テープをくぐって真っ暗な家の中に入って行った。
「その子、さっき、例のマンションでも見掛けたんです」
「え?本当ですか?」
「もしかして、何か目撃してるんでしょうか?」
「そうですね。その可能性はあります。今も聞き込み中なので、気を付けてみます」
赤井は、さっき聞いた女の子と同一人物ではないかと思った。
遥香が花束を置いて、手を合わせた後、しばらくしてライトを揺らしながら三田村が出てきた。
「いや、やっぱり居なかったですね」
「じゃあ、家が近いのかもしれません。すぐに近隣を聞き込みしてみます」
「はい、お願いします」
「遥香ちゃんはどうするの?」
「私は、このまま真っ直ぐ実家へ」
「実家?」
赤井が遥香を見た。
「ここ真っ直ぐ行ったとこですよ。すぐ近くです」
狛江市は世田谷区の西隣りである。
「そうですか」
赤井は軽く微笑んだ。
確かに、柳静香の事を聞きに行った時に、お礼は言われたが、赤井は、遥香が普通に父に会うということに少しホッとしていた。
「じゃあ、暗くなったので気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
遥香は軽く手を振りながら歩いて行った。
「そうか」
「どうしたんです?」
「いやな、あのマンションから、柳静香は、渕上遥香の実家の方へ歩いていたんだなと」
「遥香ちゃんの実家を知っていたんですかね?」
「いや、分からんが…」
「分からんが?」
そう言ってこっちを見た三田村の頭を赤井はまた叩いた。
「ちょっと、何するんですか!」
「だから、『ちゃん』はやめろ!」
「あー!そんなの俺の自由でしょ!」
「自由な訳あるか!」
「もういいから行きますよ!」
「三田村、おまえは!」
そんな会話をしながらも、二人は次の聞き込み先に足を向けた。

