うつりというもの

遺体発見現場近隣


「何度もすみません。世田谷西署の者ですが」

赤井の前で三田村が、出てきた品の良い初老の女性に言った。

「ああ、例の殺人のね…」

「ええ」

「あの事件のあった日の夜22時頃なんですが、何か気付いた事、思い出した事、何でもいいんで、何かないですかねぇ?」

「この前も聞かれたけど、ずっと家の中にいたしねぇ…」

その女性がそう言った時、後ろを小さな女の子を連れた親子連れが通った。

その女の子が、母親に公園での事を話しながら歩いていた。

「あ…」

「あ?」

「そうそう。そういえば、その時間くらいの頃、私、お手洗いに行ったのね。で、手を洗うところの窓を開けてたんだけどね、その時、外を女の子が親か誰かと通っていたの」

「え?女の子ですか?」

三田村は何の話かと首を傾げた。

「えっとね、その女の子が、確か、『どこに行くの?』『もう無理だよ』っていうことを言ってたの。でも、あの窓からは外は見えなくてね」

彼女が指差した方にお手洗いの窓らしき物が見えたが、その前は背の高い生け垣で、確かに、道路のところは見えないだろう。

「『どこに行くの?』『もう無理だよ』…?」

赤井が繰り返した。

「そうそう。確かにそんな感じのこと言ってたの。ちょっと言葉遣いが変だったからはっきりは覚えてないけど、意味はそう。で、あんな時間に小さな子供を連れて、何なのかしらって思ったのよね」

彼女は思い出すように言ったが、

「あ、あらあらごめんなさい。事件と何の関係もないわね」

と、笑った。

「ですよねぇ~」

三田村は苦笑したが、赤井はなぜだか、その台詞が気になった。

「いや、まあ、その親子が見つかれば、何かを見てるかもしれませんので参考になります。他には何かないですか?」

三田村が更に聞いたが、聞けたのはそれだけだった。

赤井達はその女性にお礼を言うと、次の家に向かった。