うつりというもの

まだ陽が落ち始めたばかりの時間だが、再検索は時間が掛かるので、遥香は帰ることにした。

遥香は教授に挨拶して研究室を出た。

廊下の左右を見ても人の気配はなく、しーんとしていた。

夏休みにこんなことをしている自分に、無職なのにそうじゃない感じの違和感を感じて、彼女は苦笑した。

「仕事見つかるかなぁ」

遥香は少し笑顔で大学の門をくぐった。


いつもの帰り道だったが、そんな気分が後押ししたのか、ふと思い付いて、一つ手前の駅で降りた。

遥香は駅前の花屋であまり派手でない花束を2つ買った。

それを抱えて、彼女は駅から北の方へ歩き始めた。

ほんの数分で着いたところは、柳静香のマンションだった。

エレベーターで4階に上がると、それらしい部屋のドアに立入禁止と書かれた黄色いテープが貼られていた。

表札を見ると、確かにここだった。

遥香は、しゃがんで花束を1つドアの前に立て掛けると、目を瞑り手を合わせた。

しばらくして、彼女は目を開けると、

「私のお母さんと、最期に一緒だったのはなぜなんですか?」

と、小さな声で言った。

誰も返事をしない中で、遥香の耳には後ろから、夕方のすごい蝉の合唱が聞こえていた。


遥香が立ち上がってエレベーターの方へ向くと、その手前の角から顔を半分出してこっちを見ている女の子に気が付いた。

遥香は、何だろう?と思いながら、女の子の方へ歩き始めたが、その女の子はすぐにそこの階段を降りて行ってしまった。

エレベーターのところから階段の方に耳をすませたが、その時にはもう駆け下りる足音は聞こえなかった。

遥香は首を傾げながら、エレベーターに乗った。

下に降りて周りを見てみたが、やっぱりさっきの女の子はいなかった。

「ま、いっか」

遥香は次の場所へと向かった。

その次の場所は、ここからちょうど実家への道の途中みたいな感じだった。