うつりというもの

東武蔵大学園山教授研究室


遥香は、最初にここを訪れてから毎日通っていた。

「先生、差入れ持ってきました」

遥香は吉祥寺駅のエキナカで買った包みをテーブルに置いた。

「お、sawaiのカヌレかい?」

「はい。先生お好きでしたよね」

「おお、好きだ。ありがとう」

遥香は二人分のコーヒーを入れて、それもテーブルに置いた。

教授はソファーに座ると、早速箱を開け始めた。

「うんうん、これこれ」

教授は、まるで宝石でも見る様に軽く目の前に持ち上げて、ゴクリと唾を飲み込んだ。

遥香は苦笑しながら、コーヒーを口にした。

「美味い♪」

「それは良かったです」

遥香は、満面の笑みを浮かべている教授を見て笑った。

「で、何か見つかりました?」

「うっ!!」

「え?せ、先生!」

遥香の問い掛けに思い当たった教授が、いきなりカヌレを喉に詰まらせた。

遥香は慌てて教授の後ろに回ると背中をどんどんと叩いた。

教授はコーヒーを飲んでやっと一息ついて、

「いやぁ、死ぬかと思ったよ」

と、笑った。

「もう、先生ったら…」

「いや、すまんすまん」

そう言いながらも、教授はすぐにもう一つカヌレを手に取った。

そこまで好きなら仕方ないと諦めて、遥香は彼が食べ終わるのを待った。