「小百合は…殺されていたんですか…あの頃に既に…」

渕上は、感情を押し殺して、そう言った。

が、すぐにぼろぼろと大粒の涙を流して、嗚咽し始めた。

赤井と三田村はそれを黙って見つめていた。

赤井もあらためて調べて気が付いたのだが、渕上小百合の捜索願が出された日付けが、先輩の辞職の時期とほぼ同じだったのだ。

だから、それが渕上がその後追求をしなかったことと、社会部から出た理由だと思ったのだが、渕上が落ち着いた後に話し始めた内容は、そのとおりだった。

彼にとって小百合は良くできた妻であり、何よりも掛け替えのない存在だったらしい。

渕上は、彼女が傍にいるからこそ仕事人間になれていたのだ。

ところが、その妻が何の前触れもなく失踪し、その時の狼狽振りは酷かったらしい。

大スクープの後でも、もうそんなことを考える余裕はなかったみたいだった。

彼は妻を捜すために、自分から休みの取れる部署への異動を申し出たのだった。


「それで、娘さんとは何か確執が?」

赤井は、理由が想像できたが、一応聞いた。

「そうですね。あの時、妻が失踪したのは私のせいだと遥香は思っていました。私が家に帰らず仕事ばかりしていたからだと。それで今でも嫌われています」

赤井はふと気が付いた。

そういえば、よく考えたら、遥香が連絡先に書いた住所は、同じ狛江市だが、赤井が知っている自宅の住所とは違っていた。

「娘さんは、今、独り暮らしなんですか?」

「いえ、妻の父のとこで暮らしています」

「ああ、そういうことですか…」

赤井は三田村と顔を見合わせて頷いた。


その後、当時の状況を再確認したが、やはり、特に分かった事はなかった。

渕上は妻に合わせて欲しいと言ったので、そのまま一緒に署に戻ったのだった。