実家のお風呂場の脱衣かごの服の上で、遥香のケータイが震えていた。

遥香は湯船に口元まで浸かり、静かに揺れる湯面を見ていた。

今回の事は、たった2ヶ月前に始まった事だった。

その間に7人も亡くなった。

昔は、うつりがいた地域にそんなに人がいなくて身体が合わず被害が少なかったのかもしれない。

今は東京に来て、これだけの人がいる。

このまま続いていたらと考えると恐ろしい。

この恐怖が終わって本当に良かった。

遥香はそう思っていた。


そして、少し落ち着いたら、本気で仕事を探そうと思った。


「遥香、ご飯もうすぐできるぞー」

脱衣所の外から父の声が聞こえた。

「はあい!」

遥香は娘に気を使って脱衣所までも入ってこない父に、大きな声で返事をした。

気が付けば笑顔になっていることに気が付いた。