遥香が世田谷慶成会病院を出た時は19時を過ぎていた。

今日も女の子を見つけることはできなかった。

あまり夜遅くは、やはり危険な気がしたので、今日もこのまま帰ることにした。

病院を出て駅の方へ歩き始めたが、ここから、あのお堂までそんなに遠くはない気がした。

あそこにはまだ警官もいるだろう。

遥香は踵を返すと、お堂に向かった。


「あれ?」

お堂の前まで来ると、黄色いテープはそのままだったが、誰もいなかった。

中まで入るつもりはないし、ここで出会うのは女の子の方よりうつりの可能性の方が高い。

でも、ふと考えた。


「私、なぜここに来ようと思ったんだろう?」


少しまずい気がした。

遥香は、慈空達に手を合わせて、戻ろうと思った。


手を合わせている時だった。

誰かに呼ばれた気がして、目を開けた。

目の前に女の子がいた。

「わっ!」

あまりに突然なのでびっくりした。

女の子がじっと見つめていた。


「こ、こんなとこで何してるの?」

聞いてみたが、ただ遥香を見つめているだけだった。

今日はボールを持っていなかった。

「何してるの?」

逆に聞かれた。

「えっと、ここで一昨日亡くなった人達に手を合わせていたんだけど…」

「知り合い?」

「え?えっと、知り合いといえば、知り合いなんだけど」

「来て」

そう言うと、女の子が竹林の小径に入って行った。

「あ、ちょっと待って!そこは、ちょっと…」

遥香は慌てた。

中に入ってうつりがいたら…

「あ…」

そうは思ったが、今は、これこそチャンスだった。

女の子とうつりが出会った時に助けを求めたら、何とかなるかもしれなかった。

遥香は、少し震える手をギュッと握り締めて、女の子の後を追った。