遥香は、15時過ぎにみんなと別れた後、昨日慈空と慈延が殺されたお堂の前に来ていた。

竹林の入り口には黄色いテープが張られていて、警官が一人立っていた。

遥香はその場で手を合わせた。

しばらくして顔を上げると、零れた涙を拭った。


「私が何とかしますから」

遥香は決意を新たにした。

とりあえず周りを見回したが、女の子はいなかった。

遥香は、他にいそうな場所に向かった。


遥香は、各遺体の発見現場を回った。

しかし、どこにも女の子はいなかった。

実家にも行ってみた。

家の前でちょうど帰ってきた父祐志と会った。

「どうした?」

「あ、ちょっとお母さんに」

「そうか。まあ、上がれ」

「うん」

遥香は素直に言った。


祐志が晩ご飯を作ってくれている間に、遥香は仏間に行った。

母へ手を合わせた後、しばらくそこに居た。

でも、母の霊は現れなかった。

「遥香、できたよ」

祐志が呼びに来た。

「はい」

遥香は仏間を後にした。


「で、何か分かったのか?」

祐志が食べながら言った。

「うん、結構いろいろ」

遥香も食べながら言った。

「俺に何かできるか?」

遥香が見ると、祐志は真面目な顔をしていた。

「ううん。私達には何もできることはないよ」

遥香も真面目な顔で答えた。

自分のしようとしている事は言えなかった。

「…そっか」

しばらく二人は黙ってご飯を食べていたが、祐志が何か言いたげなのに遥香は気が付いた。

「なに?」

遥香は食べるのをやめずに聞いた。

「あ、ああ…」

祐志は茶碗を持ったまま遥香に目を合わせたが、すぐに視線をずらした。

「…家に、帰って来ないか?」

やっとのことで、祐志はその言葉を絞りだした。

「…そうしたいんだけど、まだお爺ちゃんの面倒を見なきゃね」

遥香は、少し間を空けながらも、そう言った。

「…そっか」

祐志は、その口元に少し笑みを浮かべた。


その後は特に会話はなかった。

遥香が実家を出た時は夜も更けていた。

今夜は帰ることにした。