うつりというもの

「この寺の住職で山賀と申します」

彼はそう言って頭を下げた。

「突然申し訳ありません。東武蔵大学の教授で園田と申します。それと教え子達です」

私達も頭を下げた。

「うちの者から聞きましたが、何やら封印についてとか…」

住職が少し感情を表に出さない表情で言った。

「ええ、こちらにあるとお聞きして、確認に来ました」

「確認?誰に何を聞かれたのでしょう?」

「広田三郎さんの書いた物から、ここを知りました」

「広田三郎さん…ですか」

住職はまだ、はっきりとは表情を変えなかった。

彼等がなぜここに来たのか探っている様子だった。

「はっきり言います」

教授が真っ直ぐ住職を見た。

「うつりが結界を出ました」

「え!!」

住職の無表情は崩れた。

「そんなばかな…」

「お札を確認してください」

「分かりました。こちらへ」

住職がさっきまでとは打って変わって真剣な表情で立ち上がった。

住職はそのまま本堂に向かった。

「こちらです」

住職は御本尊の台座の裏に回った。

「こ、これは…」

そこで、絶句した。

遥香達もそれが見える位置に駆け寄った。

「あ!」

そこには黒く煤けたお札があった。

「むむ…確かに…」

住職が唸った。

「やっぱり、結界が破れていたんですね」

遥香が言った。

「あなた方は一体…?」

住職が遥香達を見た。